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ー原状回復の現場での流れがまるわかりガイドー

原状回復とは何かを最初に整理する

賃貸物件やテナント退去時に、借主が入居前の状態に戻す取り組みが原状回復です。現場では大家や管理会社、借主、施工会社の三者で進めるのが一般的で、不要なトラブルを避けるには流れの理解が欠かせません。ここでは実務で使える手順を、時系列でわかりやすく解説します。

現地確認と入居時状態の照合

最初のステップは現地確認です。入居時の写真や点検表、契約書の特約を手元に用意し、傷や汚れの発生源が経年劣化か使用過多かを判定します。共用部から室内、設備、屋外の順にチェックすると抜け漏れが減ります。小さな破損も後の費用配分に影響するため、位置と状態を具体的にメモします。

チェックの観点を具体化する

床の凹みやめくれ、巾木の欠け、壁紙の浮きや変色、天井の雨染み、扉の建付け、シリンダーの作動、給排水の水漏れ、エアコンの冷暖房とドレン詰まり、分電盤の作動音などを順に確認します。素材ごとに劣化速度が異なるため、材質も併記しておくと見積りの精度が上がります。

責任区分の一次判断

日焼けや軽微な変色は経年変化とされることが多い一方、釘穴の多用や床の大きな焦げは借主負担になりやすい領域です。水漏れ跡がある場合は配管起因か入居者の扱いかを、痕跡の範囲や給水設備の状態から仮説を立てます。確定は後述の再点検で行う前提で、現場では「仮区分」を付与しておきます。

見積りとスケジュール調整

現地確認の記録をもとに、工事項目を洗い出して概算見積りを作成します。室内全体のクロス張替えや床材交換は範囲が広いため、部分補修の選択肢も並べて比較できる形にします。退去と次の入居の間が短い場合、優先度を付けて工期短縮案を提示するのが実務的です。

工事項目の整理のしかた

内装仕上げ、建具金物、設備機器、電気設備、クリーニング、廃棄処分の六つに分けると把握しやすくなります。それぞれに数量、単価、作業時間、必要資格の有無を併記し、代替案があるものは並記します。たとえば壁紙は同等品、量産型、機能性の三案を提示すると合意形成が早まります。

費用負担の整理と合意

責任区分の仮判断をもとに費用の負担割合案を作成し、管理会社と借主で説明の場を設けます。論点は「原状の範囲」「通常損耗の扱い」「特約の効力」の三点です。曖昧な項目は、写真や測定値を根拠にして客観化し、合意事項は議事録化して全員が同じ文書を共有します。

着工前の養生と段取り

工事は段取り八分が原則です。搬入経路と共用部の養生、資材の置き場、騒音や粉塵の対策、住戸や隣接テナントへの周知、作業時間帯の制限、鍵の受け渡しなどを、着工前の打合せで確定させます。電気と水を仮設で確保する場合は開栓手続きの役割分担も明確にします。

安全と品質のチェックポイント

脚立や足場の使用計画、感電防止のブレーカー操作手順、養生材の耐火等級、臭気の強い接着剤を使う時間帯、近隣クレーム時の一次対応責任者、写真記録の保存先などを事前に決めておくと、現場で迷いが生じません。

実作業の進め方と注意点

原状回復の実作業は、撤去解体、下地補修、仕上げ、設備調整、クリーニングの順で進めるのが基本です。解体で生じる粉塵や騒音が後工程に影響するため、最初に一気に片付け、次に下地を整えてから仕上げに入ります。並行して設備の不具合を点検し、必要なら部材手配を先行させると工期短縮に有効です。

床・壁・天井の補修のコツ

フローリングは部分補修で済むか張替えが必要かを、根太の沈みや反りの有無で判断します。壁はビス穴の充填だけでなく、周辺の下地の浮きや巾木の割れも同時に是正します。天井の雨染みは原因を止めてから塗装で隠すのが基本で、原因不明のまま仕上げると再発につながります。

設備と電気のチェック

水栓や排水トラップの交換、給湯器の点検、エアコン内部の熱交換器洗浄、スイッチやコンセントの座不良の修正、照明器具の色温度統一など、見た目だけでなく機能の回復も重視します。分電盤のブレーカー表示が読みやすいか、回路ごとのラベリングがあるかも確認します。

クリーニングの考え方

仕上げ前の粗清掃と、全工程完了後の仕上げ清掃を分けて実施します。油汚れやカビは素材に合う洗浄剤を選び、アルカリと酸を混在させない基本を守ります。換気扇のダクト、窓枠のレール、給気口フィルターなど、見落としがちな部分をチェックリスト化すると品質が安定します。

完成検査と引き渡し

完了後は関係者で立会い検査を行います。見積り時に設定した工事項目ごとに是正の有無を確認し、色むら、寸法ずれ、作動不良、臭気の残存などをチェックします。再補修が発生した場合は箇所と手直し期日を明記し、鍵の返却やゴミの最終搬出の責任者も記録します。

記録とアフター対応

写真台帳と最終見積り、合意書、保証の対象と期間をひとつのフォルダにまとめ、次回以降の原状回復やメンテナンスに転用できるよう整理します。引き渡し後に不具合が見つかった場合の連絡経路や初動対応時間を取り決めておくと、入居サイクルの短い物件でも安心です。

トラブルを避けるための実務ヒント

入居時の記録が弱いと責任区分の議論が長引きます。契約直後に四隅と設備を撮影して共有フォルダに保存し、更新時にも再撮影する仕組みをつくると、退去時の判断が速くなります。また、見積りに含まれる範囲を図面にハイライトしておくと、後からの認識違いを防げます。

コスト最適化の考え方

全張替えが前提になりがちな壁紙や床材も、日焼けの強い面だけを重点的に更新し、他面はクリーニングや部分補修で整えると費用対効果が高まります。設備は在庫回転の良い汎用品を採用すると、次の不具合時にも交換が容易です。見えない部分の下地や配管に投資しておくと、長期的にトラブルが減ります。

まとめ:段取りと記録が品質を決める

原状回復の現場は、確認、合意、段取り、実作業、検査という流れで組み立てるとスムーズです。各段階で写真と数値の記録を残し、責任区分や範囲を文書で共有すれば、費用トラブルややり直しを最小限にできます。限られた工期でも品質を落とさない鍵は、事前準備と情報共有にあります。

2025.10.17